【保護者向け】大学受験の費用総額は?
併願別シミュレーションと「今から間に合う」支援制度・完全ガイド
〜11月からでも間に合う教育費準備の完全マニュアル〜
目次
序章:11月、保護者の「見えない不安」を解消するために
秋が深まり、街が色づき始める11月。受験生本人が第一志望校の赤本と格闘している裏側で、保護者の皆様は、まったく別の種類の、しかし同じくらい重いプレッシャーを感じ始めている頃ではないでしょうか。
- 「併願校、これで本当にいいのかしら…」
- 「合格したのは嬉しいけれど、入学金の振込期限がすぐそこまで…」
- 「万が一、第一志望がダメだった場合、滑り止めの私立にいくら払うことになるの?」
模試の判定や偏差値の話はできても、「お金」の話は、なぜかタブー視されがちです。ママ友同士でも「うちは教育ローンを組むの」とは言い出しにくいものです。
その結果、多くのご家庭が、「いつ、いくらの現金が必要になるのか」という最も重要な情報を、明確に把握できないまま、不安な冬を迎えようとしています。
お子様が受験勉強という「前半戦」を戦っている今、保護者の方は「兵站(へいたん)=資金準備」という「後半戦」を戦う準備が必要です。
第1章:【残酷なタイムライン】大学受験「全費用」は、いつ・いくら発生するか
大学受験費用と聞くと「入学金」を想像しがちですが、実際にはその前から細かく、そして入学直後に集中して費用が発生します。まずは「いつ」お金が出ていくのか、時系列で見ていきましょう。
1. 高3夏~秋:「助走」ですでに支払った費用
(すでに支払いが終わったご家庭も多いですが、総額を知るために振り返ります)
- 夏期・秋期講習(塾・予備校):国公立・私立問わず、集中的な対策講座で10万円〜30万円
- 模試(共通テスト模試・大学別模試):1回あたり5,000円〜10,000円。年間5回以上受ければ25,000円〜50,000円
2. 高3秋(10月~11月):「出願」でかかる費用
- 大学入学共通テスト 検定料(出願10月):3教科以上:18,000円、2教科以下:12,000円
- 学校推薦型選抜・総合型選抜 検定料:国公立:約17,000円、私立:約35,000円
3. 高3冬(12月~1月):「一般選抜」出願ラッシュ
ここからが本番です。複数校に出願するため、金額が膨らみます。
- 国公立大学 2次試験 検定料:1校あたり:約17,000円
- 私立大学 一般選抜 検定料:1出願あたり:約35,000円
- 私立大学 共通テスト利用選抜 検定料:1出願(1学科)あたり:約18,000円〜20,000円
【保護者の知恵(1):割引制度を使い倒す】
私立大学の多くは「全学部日程」や「複数回受験割引」「ネット出願割引」を導入しています。同じ大学を複数回受ける場合、2回目以降の検定料が1万〜2万円割引になることも。「どうせ受けるなら」と併願戦略に組み込むことで、数万円の節約につながります。
4. 高3冬(1月~2月):「受験本番」でかかる見えない費用
- 交通費・宿泊費(遠征費):これが想像以上に高額です。地方から都市部(東京・大阪など)へ受験する場合、1校受験するだけでも「交通費(往復)+宿泊費(2泊)=5万円〜10万円」が飛んでいきます。
- 2校、3校と受験が続けば、滞在費は20万円を超えることも珍しくありません。
5. 高3冬(2月):【最重要】悪魔の「入学金ラッシュ」
ここが、保護者の皆様が最も備えるべき「魔の2月」です。
なぜ「魔の2月」なのか?
それは、第一志望(本命)の国公立大学(3月上旬発表)や、後期日程の私立大学の合格発表「より前」に、滑り止めで合格した私立大学の「入学手続締切日」が来るからです。
- 私立大学(文系):入学金 約23万円+前期授業料 約48万円=約71万円
- 私立大学(理系):入学金 約25万円+前期授業料 約68万円=約93万円
- タイムリミット:合格発表からわずか1週間〜10日。この短期間で数十万円の現金を振り込まなければ、合格は「辞退」とみなされます。
6. 高3春(3月):「捨て金」の発生と「本命」の支払い
(1)「捨て金」の確定
2月に滑り止めの私立A大学に70万円を振り込んだ後、3月10日に第一志望の国立B大学に合格したとします。
B大学に進学する場合、A大学に振り込んだ70万円のうち、入学金(約23万円)は返金されません。(※授業料(約48万円)は「入学辞退届」を出すことで返金されるのが一般的です)
この返金されない入学金を、通称「捨て金」と呼びます。これは「合格の権利を確保するための保険料」と割り切るしかありません。
(2)本命校への納付
国立B大学に合格したら、今度はB大学への納付手続きが待っています。
国立大学(入学金 約28万円+前期授業料 約27万円=約55万円)
つまり、2月〜3月のわずか1ヶ月強の間に、「滑り止め私立の納付金(約70万円)」と「本命国立の納付金(約55万円)」の、合計125万円もの大金が一時的に動く可能性があるのです。
7. 大学入学直前(3月~4月):新生活準備費
自宅通学か、一人暮らしかで天と地ほどの差が出ます。
- 一人暮らしの場合(自宅外通学):敷金・礼金、家財道具(寝具、家電)、PC購入費、スーツ代など。平均50万円〜80万円は見ておく必要があります。
第2章:【徹底シミュレーション】併願パターン別「総額」はいくら?
第1章のタイムラインを踏まえ、「結局、我が家はいくら準備すれば?」という疑問に答えます。4つの代表的なパターンで「入学までに必要な総額」を試算します。(※交通費・新生活費は別途)
パターン1:【堅実・国公立文系】(自宅通学)
併願校:共通テスト+国公立(前期・後期)+私立(共テ利用2校+一般1校)=合計5校
(A)受験料
- • 共テ:18,000円
- • 国公立(前・後):17,000円 × 2 = 34,000円
- • 私立(共テ利用):18,000円 × 2 = 36,000円
- • 私立(一般):35,000円
- 受験料 合計:123,000円
(B)滑り止め私立への納付金(捨て金)
約230,000円(※3月の国公立発表前に期限が来た場合)
(C)本命(国公立)の初年度納付金
約820,000円(入学金+前期・後期授業料)
【保護者が備えるべき総額(A+B+C)】
約1,173,000円
(うち、2〜3月で一時的に約78万円が必要)
パターン2:【平均的・私立文系】(自宅通学)
併願校:共通テスト+私立(共テ利用3校+一般3校)=合計6校
(A)受験料
- • 共テ:18,000円
- • 私立(共テ利用):18,000円 × 3 = 54,000円
- • 私立(一般・割引利用):35,000円+30,000円+30,000円 = 95,000円
- 受験料 合計:167,000円
(B)滑り止め私立への納付金(捨て金)
0円(※本命校の合格発表が早く、滑り止め校の振込が不要だった場合)
(C)本命(私立文系)の初年度納付金
約1,180,000円(入学金+授業料など)
【保護者が備えるべき総額(A+C)】
約1,347,000円
(※滑り止めに払う必要が出た場合は、さらに+23万円)
パターン3:【高額・私立理系】(地方から都市部へ・一人暮らし)
併願校:共通テスト+私立理系(一般5校)=合計5校
(A)受験料
- • 共テ:18,000円
- • 私立(一般):35,000円 × 5 = 175,000円
- 受験料 合計:193,000円
(B)交通費・宿泊費(遠征費)
2回の遠征(1回目2校、2回目3校)と仮定:約150,000円
(C)滑り止め私立への納付金(捨て金)
約250,000円(理系は入学金がやや高い)
(D)本命(私立理系)の初年度納付金
約1,560,000円
(E)新生活準備費(一人暮らし)
約600,000円
【保護者が備えるべき総額(A〜E)】
約2,753,000円
(うち、年明け〜4月までに約250万円以上の現金が必要)
第3章:【不安解消Q&A】「国の教育ローン」徹底活用ガイド
シミュレーションを見て「うちもパターン3に近い…とても現金では無理だ」と青ざめた保護者の方もいらっしゃると思います。
ご安心ください。そのために「今から間に合う」公的な支援があります。その最有力候補が「国の教育ローン(日本政策金融公庫)」です。
Q最大の不安:事前申請して、もし受験に落ちたら(不合格だったら)?
これが保護者の皆様が抱える最大の疑問であり、申し込みをためらう最大の理由です。
A心配は一切不要です。すべてキャンセル可能です。
(1)融資の決定後でもキャンセル可能
「融資が決定していても、何らかの事情により資金が不要になった場合には、キャンセルすることができます」と明記されています。
(2)キャンセル料は一切かからない
「お金が不要になった(=受験に落ちた、または他の資金が用意できた)」と連絡するだけで、手数料や違約金は一切発生しません。
(3)志望校が変わってもOK
「第一志望A大学」で申請していたが、不合格で「第二志望B大学」に進学が決まった場合でも、手続きはそのまま継続できます。B大学の合格通知書を提出すればよく、再審査や再申込は不要です。
結論:申し込むだけなら「無料」です。
「使うかどうかわからない」場合でも、今(11月〜12月)のうちに「融資の権利」だけを確保しておくことが、受験生の親が取れる最強のリスクヘッジです。
Qいつ申し込むのがベスト?
A「まさに今」です。(必要時期の2〜3ヶ月前)
インターネット申込なら24時間可能。
理由1:審査には時間がかかる
申込から入金まで、通常2〜3週間かかります。
理由2:1月〜3月は激混みする
全国の保護者が同じことを考え、駆け込みで申し込むため、審査が遅れがちになります。「魔の2月」の振込に間に合わなくなる可能性すらあります。
11月〜12月の今、空いている時期に申請し、「合格したら、いつでもお金を動かせます」という状態にしておくのがベストです。
Q誰が(親?子?)、いくらまで借りられる?
借りる人(申込者)
保護者(親権者)です。世帯の主たる生計維持者(お父様かお母様)の名義で申し込みます。
借りられる額
学生・生徒1人につき350万円以内。(一定の要件を満たせば450万円)
金利
年2.4%(2025年11月現在・固定金利)。民間のフリーローン(年10%超)などと比べて破格の低さです。
Qメリットとデメリット(民間のローンとの違い)は?
メリット:
- 圧倒的低金利(固定金利で安心)。
- 合格発表前から申し込める。
- 世帯年収の上限が比較的ゆるやか(子供1人なら790万円、2人なら890万円まで)。
- 繰り上げ返済の手数料が無料。(ボーナスなどで余裕がある時にすぐ返せる)
デメリット:
- 審査に時間がかかる(民間よりは遅い)。
- 審査がある(世帯年収、既存のローン残高、信用情報などが見られる)。
Qもし「国の教育ローン」の審査に落ちたら?
A万が一、国の教育ローンの審査に通らなかった場合も、打つ手はあります。
- 別の家族名義(例:祖父母)で再申込してみる
- JASSO(日本学生支援機構)の「入学時特別増額貸与奨学金」を申請する(詳細は次章)
- 社会福祉協議会の「教育支援費」を検討する(次章)
第4章:【知っているか否か】奨学金・支援制度「全網羅」ガイド
「国の教育ローン」は「親」が借りる「借金」でした。一方、「奨学金」は、原則として「学生本人」が借りる(または、もらう)ものです。
「うちの子に借金を背負わせたくない」と考える保護者の方も多いですが、現在の奨学金制度は非常に多様化しています。「返さなくていい」ものから順番に、すべて解説します。
1. 【給付型】高等教育の修学支援新制度(通称:新・高等教育無償化)
2020年度から始まった、最も強力な制度です。「返済不要」です。
内容:
- (1)授業料・入学金の減免(大学が減額する)
- (2)給付型奨学金(JASSOから学生本人に振り込まれる)
この2つがセットになっています。
対象:
- 世帯年収と資産の基準(住民税非課税世帯およびそれに準ずる世帯)
- 学力の基準(高校の成績)
※基準は非常に細かく、JASSOのサイトでシミュレーション必須です。
今からできること:
お子様が高校3年生の春〜夏に「予約採用」に申し込んでいるか、今すぐ確認してください。もし「予約採用」で採用候補者になっていれば、入学金・授業料の不安は大幅に軽減されます。
「予約採用」を逃した場合:進学後の4月に「在学採用」で申し込めますが、入学金(2月の支払い)には間に合いません。
2. 【貸与型】日本学生支援機構(JASSO)奨学金
最も利用者が多い、オーソドックスな奨学金です。「学生本人」が卒業後に返済します。
第一種奨学金(無利子):
- 利子が一切つかない、最も有利な奨学金。
- その分、学力基準・家計基準が厳しめです。
第二種奨学金(有利子):
- 在学中は無利子、卒業後に利子(上限年3%)がつきます。
- 第一種より基準がゆるやかで、多くの学生が利用できます。
【保護者の知恵(2):JASSOは「入学金」には使えない?】
JASSOの奨学金(予約採用)は、大学入学後の4月〜5月に「進学届」を提出し、初回の振込があるのは5月か6月です。つまり、2月〜3月の「入学金」「前期授業料」の支払いには、原則として間に合いません。
3. 【裏ワザ的制度】入学時特別増額貸与奨学金(JASSO)
前述の「JASSOは入学金に間に合わない」という問題を解決するための、特別な「貸与型(有利子)」奨学金です。
内容:
10万〜50万円の範囲で、初回(5月か6月)の振込時に「増額」して振り込んでくれる制度。このお金で、保護者が一時的に立て替えた入学金を精算する、というイメージです。
【超重要】利用できる条件:
この制度を利用するには、「まず、国の教育ローンを申し込んだが、審査に落ちて融資を受けられなかった」という事実が必要になるケースがあります。
つまり、「国の教育ローン(親)」→「審査落ち」→「JASSO増額(子)」という流れが、公的なセーフティネットとして設計されているのです。
逆に言えば、国の教育ローンを(審査に落ちるのが怖くて)申し込まないままだと、この増額制度も使えない可能性があるのです。
4. まだある!その他の支援制度
大学独自の奨学金・特待生制度:
これが狙えるなら最強です。入試の成績優秀者を対象に「入学金免除」「授業料4年間全額免除」などを設けている大学(特に私立)は多いです。募集要項を今一度確認し、お子様の成績で狙えないか検討する価値はあります。
地方自治体(都道府県・市区町村)の奨学金:
お住まいの自治体が独自に設けている奨学金。JASSOと併用できる場合も。
社会福祉協議会の「教育支援費」(低所得世帯向け):
国の教育ローンの審査に落ちた場合の次の選択肢として有効です。無利子または超低金利で、入学に必要な一時金(最大50万円など)を借りられる場合があります。お住まいの市区町村の社会福祉協議会に相談が必要です。
第5章:【最終手段】教育ローンや奨学金が間に合わない場合の対処法
万が一、すべての審査に落ちた、あるいは振込が間に合わない、となった場合の「最終手段」です。
【推奨】大学の窓口(学生課・財務課)に相談する
大学によっては「学費の延納(支払期限の延長)」や「分納(分割払い)」に応じてくれる場合があります。
合格通知書に同封されている「入学手続要項」を熟読し、担当窓口に「期日までに納付が困難な事情」を正直に相談してください。
学資保険の「契約者貸付」を利用する
これまで積み立ててきた学資保険を「担保」に、保険会社から一時的にお金を借りる制度です。解約するよりはるかに低金利で、審査もほぼ不要です。
親族(祖父母など)に相談する
最終的には、ご両親やご兄弟、お子様の祖父母に「入学金の一時的な立て替え」を正直にお願いすることも、尊い選択肢の一つです。
【非推奨】絶対に使ってはいけない「禁じ手」
- クレジットカードのリボ払い・キャッシング
- 消費者金融のフリーローン
これらは金利が年15%〜18%と非常に高く、一時的にしのげても、その後の家計を確実に破綻させます。これに手を出すくらいなら、前述の「1. 大学への相談」をしてください。
結論:保護者の「今すぐ」の行動が、お子様の未来を守る
7000文字の長い記事を最後までお読みいただき、ありがとうございます。
ここまで読んでくださったあなたは、もう「見えない不安」に怯える必要はありません。
お子様が志望校に合格するという「結果」を出したとき、
「ごめん、お金が払えないから、その大学は諦めてくれ」
とだけは、絶対にあってはなりません。
お子様の努力を「お金」で裏切らないために、保護者の皆様が「今すぐ(11月中)」に取るべき行動は、以下の3つです。
(確認)JASSO奨学金(予約採用)に申し込んでいるか、お子様に確認する。
(試算)第2章を参考に、我が家の「併願パターン」を確定し、「総額」を試算する。
(申請)少しでも不安があるなら、「国の教育ローン」の事前申請を「今すぐ」行う。
「落ちたらどうしよう」と心配する必要はありません。キャンセルは無料です。
「融資の権利」という最強のお守りを手に入れ、万全の体制で「魔の2月」を迎え撃ちましょう。
保護者の方のその「準備」こそが、お子様が安心して受験に挑むための、何よりの土台となります。ご家族全員で、万全の体制で春を迎えられることを、心よりお祈りしております。


